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仙台地方裁判所 昭和61年(ワ)681号 判決

原告

根本秀昭

被告

株式会社岩田商店

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し各自金一三八万六〇〇〇円およびこれに対する昭和五七年九月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

四  この判決第一項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金一六二五万九九八七円およびこれに対する昭和五七年九月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

原告は、昭和五七年九月二八日午後四時一〇分ころ、仙台市東十番丁四五番地先市道において、原動機付自転車(以下「バイク」という。)を運転して仙台駅方面から塩釜市方面に向い進行中、対向車線を進行してきた被告安住壽夫(以下「被告安住」という。)運転の普通貨物自動車が先行自動車を追越そうとして中央線を越えてきたため、同車と衝突して転倒した。

2  責任原因

本件事故当時、被告安住は被告株式会社岩田商店(以下「被告会社」という。)に勤務し、被告会社所有の車両を同社の事業の執行として運転していたから、被告安住は民法七〇九条により、被告会社は民法七一五条により原告の後記損害につき、連帯して賠償する責任がある。

3  原告の受傷内容および治療経過

(一) 受傷内容

原告は本件事故により頸部挫傷、右肩打撲、右肩鎖骨関節亜脱臼の傷害を受けた。

(二) 治療経過

原告は本件事故による傷害のため、昭和五七年九月二八日から昭和五八年一一月一五日まで宮城野病院に通院した(実通院日数二〇二日)。

(三) 後遺症

右受傷により、原告は昭和五八年一一月一五日診断の結果、頸部痛、頭痛、視力低下(従前一・五であつたものが〇・六となつた。)により労働者災害補償保険障害等級一二級一二号(「局部に頑固な神経症状を残すもの」)に該当する後遺症が残つた。仮に、右一二級一二号に該当しないとしても、同一四級九号(「局部に神経症状を残すもの」)に該当する。

4  損害 合計金一六二五万九九八七円

(一) 休業損害 金二九万五四〇〇円

原告は本件事故当時、東北学院大学生であり、大学の休暇期間はデパートでアルバイトをしていた(アルバイト料一日金三八〇〇円)が、本件事故により昭和五七年一二月一五日から昭和五八年一月五日まで、同年二月二〇日から同年四月一五日まで、および同年七月二五日から同年九月二五日までの休暇期間のうち七八日間につきアルバイト就労ができなかつたのでその内金。

算式 3800円×78日=29万6400円

(二) 逸失利益 金一一四六万四五八七円

原告は、本件事故により後遺症一二級一二号が残り、その稼働能力は一〇〇分の一四減少した。原告は当時、健康な学生であつたので、昭和五八年賃金センサス中大学卒業者の五年毎の平均給与により算出した逸失利益は別表算式のとおり金一一四六万四五八七円となる。

(三) 慰藉料 金三〇〇万円

本件事故による後遺症、通院状態を慰藉するには金三〇〇万円が相当である。

(四) 弁護士費用 金一五〇万円

5  よつて原告は被告らに対し各自、右損害合計金一六二五万九九八七円とこれに対する本件事故日以降の昭和五七年九月三〇日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否および被告の反論

1  請求原因1項中、原告主張の日時場所で、原告がバイクを運転して仙台駅方面から塩釜市方面へ進行中、被告安住運転車両と衝突したことは認めるが、衝突の態様は否認する。

2  同2項は否認し、同3、4項はいずれも不明、同5項は争う。

原告は本件事故後の昭和五八年一月一七日にバイクを運転中、タンクローリー車との交通事故(以下「第二事故」という。)を起こして受傷し入院した。さらに原告は昭和六〇年一〇月一五日にもバイクを運転中、タクシーとの交通事故(以下「第三事故」という。)を起こして受傷した。したがつて医学的に妥当な期間を越える時期以後の原告の損害は被告らの行為と相当因果関係がない。仮に原告に何らかの後遺症があるとしても本件事故による因果関係は第二事故あるいは第三事故により中断している。

三  抗弁

1  本件事故は、原告にも前方不注視等の過失が存するから過失相殺されるべきである。

2  被告らは、本件事故に関して左記のとおり合計金八四万〇〇八〇円を支払つた。

(一) 昭和五八年七月一日に、治療費名義で金三八万七三八〇円を宮城野病院に、交通費として金一四万円を被告会社を通じて原告にそれぞれ支払つた。

(二) 同年九月二八日に金二六万四七〇〇円を、昭和五九年一〇月一一日に金四万八〇〇〇円を、それぞれ治療費名義で宮城野病院に支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1項は否認する。

2  同2項は認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故および被告らの責任

請求原因1項中、原告主張の日時場所で原告がバイクを運転して仙台駅方面から塩釜市方面へ進行中、被告安住運転車両と衝突した事実は、当事者間に争いがない。

右争いがない事実といずれも成立に争いのない甲第一号証の一、第四号証および原告本人尋問の結果(第一、二回、ただし一部措信しない部分を除く。以下同じ。)によると、本件事故は昭和五七年九月二八日午後四時一〇分ころ被告安住が、勤務先の被告会社の仕事のため、同社の保有する普通貨物自動車を運転して事故現場にさしかかつた際、先行自動車が左折しようとしていたため、追越して行こうとして、車体の半分位を中央線を越えて時速約二五キロメートルで走行したが、時速約四〇キロメートルで対向してきた原告バイクの動きを良く見ていなかつたため、被告車両右前角を原告バイクの右ハンドル部分に衝突させたものと認めることできる。

そうすると、被告安住は民法七〇九条により、被告会社は民法七一五条により、本件事故による原告の後記損害につき、連帯して賠償する責任がある。

二  治療経過および後遺症

1  いずれも原本の存在および成立につき争いのない甲第一号証の二ないし四、証人大塚耕司の証言並びに前記各証拠によると、原告は本件事故により、頸部捻挫、右肩打撲、右肩鎖関節亜脱臼の傷害を受け、昭和五七年九月二八日から同年一〇月四日までの間仙台市立病院に通院し(内治療実日数二日)、同年九月三〇日から昭和五八年一一月一五日までの間宮城野病院に通院(内治療実日数二〇二日)した事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  原告は、本件事故により、労働者災害補償保険障害等級一二級一二号に該当する後遺症が、予備的に同一四級九号の後遺症が残つた旨主張するので、その点につき判断する。

いずれも成立に争いのない甲第七号証、乙第二号証によると、前記一二級一二号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは、他覚的に神経系統の障害が証明されるものであることを要し、他方、同一四級九号の「局部に神経症状を残すもの」とは、一二級よりも軽度のもので、労働には通常差し支えないが、医学的に可能な神経系統又は精神の障害に係る所見があると認められるもので、医学的に証明しうる他覚的な精神神経学的症状は明らかでないが、頭痛、めまい、疲労感などの自覚症状が単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるものは、これに該当するものと認められる。

これを本件につきみるに、前記甲第一号証の二ないし五、いずれも成立に争いのない甲第二号証の一ないし一〇、第四、第八号証、乙第四号証の一ないし一〇、丙第二号証の一ないし一二、証人関晃の証言により成立を認めることができる乙第一号証、証人大塚耕司、同関晃の各証言および原告本人尋問の結果(前同)並びに登米外科病院に対する調査嘱託の結果によると次の各事実を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果部分は措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  原告は本件事故後、頸部痛、頭痛があり、ひどくなると発熱して食欲がなくなり月二回位寝込むような自覚症状があつたため、前記認定のとおり、昭和五七年九月三〇日から昭和五八年一一月一五日まで宮城野病院に通院し、同病院整形外科の大塚医師の治療を継続して受けた。

(二)  原告は本件事故後の昭和五八年一月一七日午後四時二五分ころ、仙台市原町の国道四五号線で、バイクを運転中、鈴木一夫の運転する大型貨物自動車(タンクローリー車)の左側方を追抜きするに際し、同車が左寄りに進路変更したため接触事故(第二事故)を起こした。原告は右事故により右肘・右前腕・右足背挫傷、右骨盤部・大腿挫傷の傷害を受け、安田病院に同年一二月三一日まで入院五五日、実通院一二三日をした。しかしながら右事故においては頭部頸部には傷害を受けなかつた。原告の本件事故による前記症状は昭和五八年一一月一五日に前記大塚医師により症状が固定したものと診断されたが、現在でも雨天や曇天などには自覚症状として頸部痛が認められる。

(三)  原告は昭和六〇年一〇月一五日午前八時四五分ころ、仙台市小田原の国道四五号線で、バイクを運転中、訴外鈴木孝夫運転のタクシーが左折する際、追従していて接触事故(第三事故)を起こし、右下腿挫傷、右足背挫傷、右腕関節右股部挫傷、頸部捻挫の傷害を受け、登米外科病院に、昭和六一年三月四日まで実通院九六日をした。

(四)  原告は、昭和六一年三月上旬ころ、本件事故につき自動車保険料率算定会仙台調査事務所に後遺症一二級の認定を受けるべく請求をしたが、自訴のみで知覚、反射、筋力等に異常はないとして一二級、一四級のいずれにも該当しないとの回答を得た。

(五)  原告は本件事故前、視力は一・五であつたが、本件事故後もバイクの運転につき眼鏡は不要で、昭和六〇年の普通運転免許取得時にも眼鏡等の条件はなかつた。しかしながら第三事故後の昭和六一年六月ころに視力が〇・九に低下し、昭和六二年一月の検査では〇・一に低下した。

以上の認定事実によると、原告の頸部痛、頭痛等は本件事故と相当因果関係を認めることができ、その症状は昭和五八年一一月一五日に固定したものであり、右後遺症は前記一二級一二号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」には該当しないが、単なる故意の誇張ではないと医学的に推定されるから、同一四級九号の「局部に神経症状を残すもの」に該当すると認めるのが相当である。原告の視力低下については、本件事故後の第二、第三事故後に著しく悪化していることからして、本件事故と相当因果関係を認めることはできない。

なお前記甲第一号証の二によると、原告が本件事故直後に受診した仙台市立病院脳神経外科の昭和五七年一一月一八日付診断書では、同年一〇月二七日治癒見込で後遺障害は無しと思われる旨診断されているが、原告は同病院には二日しか通院していないから、右診断内容は前記認定を左右するものではない。また前記甲第一号証の四および証人大塚耕司の証言によると、大塚医師は昭和五八年一一月二五日、原告の頸部痛、頭痛等の症状は軽減の見込は有るが、同一二級一二号に該当する旨の診断をしていることが認められるが、大塚医師の右診断は確たる他覚的所見に基づくものではなく専ら原告の自訴に依拠しているものであるから、右診断内容も前記認定を左右するものではない。

三  損害

1  休業損害

原告本人尋問の結果により成立を認めることができる甲第五号証、第六号証の一、二、同本人尋問の結果(前同)によると、原告は本件事故および第二事故後の昭和五八年一月二二日から同月三〇日まで、同年二月二日から同月一三日まで、同年三月二日から同年四月一八日までの計六七日間、デパートでアルバイト予定であつたが就労できなかつた事実を認めることができる。しかしながら前記甲第一号証の四によると、本件事故により就業、通学が不可能と思われる期間は昭和五七年九月三〇日から同年一一月一五日までと認められ、前記就労不能の事態は第二事故およびそれによる入通院に起因するものと認められ、本件事故と相当因果関係を認めることはできない。

したがつて原告の休業損害の請求は失当である。

2  逸失利益

原告には本件事故により、前記のとおり一四級九号の後遺症が生じたが、他方、前記甲第五号証、乙第四号証の九および原告本人尋問の結果(前同)並びに弁論の全趣旨によると、原告は本件事故当時、東北学院大学経済学部三年生であつたが、本件事故により卒業が遅れ留年した事実はなく、大学卒業後一年間同大学法学部聴講生として学んだ後、昭和六〇年七月一日に日動火災海上保険株式会社に就職し現在に至つていること、原告は前記のとおり、第二事故のためアルバイト就労ができなかつた期間を除き昭和六〇年一月まではデパートでアルバイト就労をしていたこと、以上の事実を認めることができる。

これらによると、原告には本件事故による後遺症により格別の収入減が生じた事実を認めることはできず、また右後遺症による稼働能力減少の立証も尽くされていない。したがつて原告の稼働能力減少を理由とする逸失利益の請求は失当である。

3  慰藉料

前記認定のとおりの本件事故の態様、受傷の部位と程度、通院期間、後遺症の内容と程度、その他諸般の事情を総合考慮すると、本件事故による通院、後遺症を含んだ慰藉料として金一五〇万円が相当である。

四  過失相殺

前記甲第四号証および原告本人尋問の結果(前同)によると、原告のバイクは本件事故の直前、時速約四〇キロメートルで道路の中央線寄りを走行していたこと、原告は前方約一〇メートルの地点に、被告安住車が左折する先行車を追越すため中央線を越えて進行してくるのを認識したにもかかわらず、漫然前記速度で進行したため本件事故が生じたこと、以上の事実を認めることができる。

ところで、原動機付自転車の最高速度は時速三〇キロメートルと法定されており、また車両はできる限り道路の左側に寄つて通行しなければならないものとされている(道路交通法一八条一項)から、本件事故発生については原告にも過失があるものと認められる。

したがつて、これら諸般の事情を考慮して、損害の公平な分担を図めため、原告に生じた前記損害額の一割を過失相殺するのが相当である。

そこで前記損害額金一五〇万円から一割を減額した金一三五万円をもつて過失相殺後の損害額とする。

五  損害の填補

抗弁2項の事実は当事者間に争いがない。したがつて、被告らが本件事故の治療費および交通費として支払つた金八四万〇〇八〇円のうち、過失相殺されるべき一割分に相当する金八万四〇〇〇円(一〇円未満切捨て)については、原告が負担すべきものであるから、損害額から控除されるべきである。(その余の九割分の治療費および交通費は本来被告らが負担すべきものである。)

よつて前記過失相殺後の損害額金一三五万円から、右金八万四〇〇〇円を控除すると残額は金一二六万六〇〇〇円となる。

六  弁護士費用

本件訴訟の事案の内容、審理経過、認容額、その他の事情を考慮すると、原告が被告らに対して損害賠償として求る得る弁護士費用としては、金一二万円が相当である。

七  結論

よつて原告の本訴請求のうち、前記五と六の合計金一三八万六〇〇〇円とこれに対する本件事故日以降である昭和五七年九月三〇日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 水谷正俊)

別表

23歳から24歳まで

2,257,300×0.14×1.8614=588,243

25歳から29歳まで

3,018,000×0.14×3.9269=1,659,193

30歳から34歳まで

3,158,000×0.14×3.0769=1,360,359

35歳から39歳まで

5,293,000×0.14×2.4108=1,786,451

40歳から44歳まで

6,485,000×0.14×1.889=1,715,023

45歳から49歳まで

7,415,000×0.14×1.48=1,536,388

50歳から54歳まで

8,095,000×0.14×1.1596=1,314,174

55歳から59歳まで

7,297,000×0.14×0.9086=928,207

60歳から64歳まで

5,784,000×0.14×0.712=576,549

合計 11,464,587円

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